超人が求められる現代,他分野の学識・技能が能力を磨き上げるために必要です。
将来の予測が困難な時代においては、答えのない問題に対し自分で答えを見つける能力を身につけ、さらにその能力を磨き上げ、感性を研ぎ澄ましておく必要があります。そのためには生涯学び続け、主体的に考える力を育成し、答えのない問題の最善解を導くために、専門的知識と汎用的能力を鍛える必要があります。すなわち、分野を超えた学識に基づいた実習、体験活動などによる技術、技能の修得が不可欠であります。
本事業は、医学、情報科学の分野において優秀な人材を育成し、社会へ送り出している広島大学医歯薬保健学研究院と広島市立大学情報科学研究科が、優れた点を互いに提供し合い、情報医工学に卓越した先進医療を担う人材育成を行っているものです。
広島市立大学からは、「情報医工学特定プログラム」の中の「医用情報プログラム」を提供しています。このプログラムは、情報系の知識と実践力を有した医学系人材および工学系技術者の育成を目的としています。学部生向け医用情報プログラムは、情報系の基礎である「コンピュータ基礎」、「データ構造とアルゴリズムⅠ」、「医用プログラミング」の3科目から構成されています。これらの内容を理解することで情報系の基礎的知識と実践能力を身に付けることができます。平成24年度から本格的に開講される大学院生向け医学・工学連携プログラムは、「脳情報工学実習」と「医用画像診断支援特論」の2科目から構成されており、より高度な学識・技能を学ぶことができます。
学部生向け医用情報プログラムの「コンピュータ基礎」は、初めて情報科学を学ぶ受講者に、コンピュータのハードウエア、ソフトウエア、ネットワークに関する基礎知識を身につけるための序説です。コンピュータの種類と能力、入出力装置、記憶装置、中央処理装置、オペレーティングシステム、コンピュータ内のデータ表現、論理回路の基礎、ファイル編成とデータベース、通信ネットワーク、情報システムの信頼性、セキュリティと情報倫理などについて学びます。
「データ構造とアルゴリズムⅠ」は、コンピュータによるデータ処理を実現するための基本概念である様々なデータ構造とそれを取り扱う基本的なアルゴリズムについて学びます。具体的には、アルゴリズムの計算量、基本データ構造とその操作であるリスト、スタック、キュー、再帰法や木とグラフ、探索、各種のソート、選択などのアルゴリズムを学びます。
「医用プログラミング」は、統計計算、画像処理の講義と演習を通じて、情報系の基礎技術であるC言語によるプログラミングについて学びます。実際にプログラミングをすることは、コンピュータやシステムがどのようにして動いているかを知るうえで大変重要です。まず、コンピュータの基礎知識、変数、式と値、条件分岐、多岐条件、反復制御、ファイルの入出力などについて講義と演習を通じて学びます。次いで基礎知識の応用として、統計処理の基礎とプログラムの実装、重回帰分析プログラムの実装について講義と演習により学びます。最後に、医用画像処理について、生体断層画像計測法、医用画像の規格(DICOM)や種々の画像処理アルゴリズムについて学んだ後、アフィン変換と空間フィルタリングを用いた画像処理アルゴリズムの実装について演習します。
大学院生向け医学・工学連携プログラムの「脳情報工学実習」では、脳電位計測の基礎技術を習得し、計測データから有用な信号を抽出するための解析手法を学びます。脳の活動に伴って発生する電気信号である脳電位の計測および計測データの処理・解析を行うことにより、脳の情報処理メカニズムについて学びます。脳波のα波、β波、認知・判断等に関連する事象関連電位、感覚刺激により生じる誘発電位の計測解析が含まれています。
「医用画像診断支援特論」では、画像処理技術の基本的知識を習得し、実装を通して医用画像診断支援技術の処理を実践的に身につけます。医用画像診断支援の概念、背景、効果について説明し、「X線画像の照射野絞り領域の検出と高輝度領域の低輝度化」を実現する処理の実装を通して理解を深めます。処理構築の基本となる画像のフィルタ処理、エッジ検出、ハフ変換などの画像処理技術を紹介し、演習によって実装します。これらの基本処理の組み合わせをベースに、各自がオリジナルな手法による処理を構築します。また発表会を通して処理結果のまとめ方や客観的な評価・考察についても学びます。
現在では、様々な分野においてコンピュータが組み込まれた機器が導入され、日常的に使われています。これらを正しく有効に使い活用するためには、医療人であっても情報系・工学系の知識や体験が必要とされますし、また、情報系工学系の披術者であっても医歯薬保健学系の仕事に従事する場合、医療系の知識や体験を有していることは非常に重要であります。すでに本プログラムの修了者が社会において活躍しだしました。このプログラムを履修する皆さんが国際社会に貢献してくださるように、本プログラム関係者一同、切に期待しています。
医療系知識を有した情報系・工学系の技術者の育成を目指します。
私たち広島大学では、「情報医工学特定プログラム」の中で、「医歯薬保健学プログラム」を提供します。医療系知識を有した情報系・工学系の技術者の育成を日指し,さらに,大学院への進学によって高度な知識を有した専門職業人の育成につながるプログラムです。医歯薬保健学プログラムは、「医歯薬保健学I」、「医歯薬保健学Ⅱ」、「医療系実習」の3つから構成されています。それぞれを具体的に説明しましょう。
「医歯薬保健学Ⅰ」は、医学・歯学・薬学・保健学の総論にあたるもので、それぞれの領域の基礎的事項についての講義をオムニバス形式で行います。ベーシック人体構造学・細胞機能学・病因病態学,ベーシック内科学・外科学・画像診断学、ベーシック医療倫理学、ベーシック基礎・臨床歯科学、ベーシック薬学、ベーシック看護学・理学療法学・作業療法学が含まれます。 「医歯薬保健学Ⅱ」は基礎的知識を得た上で、情報科学系・工学系に関係する分野について各論的に講義するもので、これには、アドバンスト内科学・外科学・整形外科学、アドバンスト放射線診断・治療学、アドバンスト先端治療学、アドバンスト医歯用マテリアル学、アドバンスト歯科診断・治療学、アドバンスト医薬品製剤設計学・創製学,アドバンスト臨床看護学・介護支援学、アドバンストスポーツ・リハビリテーション学などが含まれています。特に大学院課程で共通化する分野は詳細に教育を行います。
「医療系実習」では、医学系・歯学系・薬学系・保健学系の4つの分野を対象に医療現場での実習を行ない、それまでに修得した医歯薬保健学の総論、各論の知織を本物の理解へと深めることができます。医歯薬学総合コースでは、一般外来見学、手術見学、放射線診断・治療部見学、内視鏡・透析見学、医療面接体験実習、血圧測定・エコー体験実習、薬剤部・調剤薬局見学実習、看護体験実習、介護体験実習、BLS(Basic Life Support)講習、薬学系研究室見学実習などを行ないます。医学系、歯学系、薬学系、保健学系のそれぞれに特化したコースも設定しています。
実習の場は、広島大学病院のほか、県立広島病院、広島市民病院にもご協力をいただくことを予定しています。 情報系・工学系の学生にとって、医療・福祉との関連が見えることによって自分たちの分野におけるモチベーションが高まることはもちろんのこと、医学・歯学・薬学・保健学の専門家から講義をうけることにより、確かな知識を身に付けることができます。医療系実習からは、医療現場の体験を通して教室では知ることのできない医療・情報・工学の連携が見えてくるでしょう。
一方、医歯薬保健学の学生には,広島市立大学,広島工業大学から提供される情報系・工学系のプログラムによって,医歯薬保健の現場で実際に使われている様々な医療・介護機器や情報処理の原理から応用までを学ぶことができ、皆さんが今後担う医療・介護福祉・生命医科学研究の大きな財産になることは間違いありません。憫報系・工学系・医歯薬保健学系の学生の皆さんの積極的な参加を期待しています。
医療機器の的確な取り扱いや、高度医療機器の開発について学びます。
私たち広島工業大学からは、「情報医工学特定プログラム」の中の「医用工学プログラム」を提供します。現在の電子工学や情報工学の進歩は、現代医学、医療において診断や治療に大きく貢献する高度医療機器の開発を可能にしています。しかしながら、医療機器の高機能化は、医療機器をブラックボックス化し、医療現場において医療機器の理解を困難にしています。医療人として,医療機器の原理や動作を理解し,医療機器の問題点や取り扱い等を明確に把握することが求められています。そこで、医用工学プログラムは、医療機器の原理や動作を基礎から理解できるよう「医用電子工学」「医療機器の原理と構造」、「医用工学実験」の3科目で構成しております。
「医用電子工学」は、医学・歯学・薬学・保健学領域における不可欠な医療機器の原理や動作を理解するための基礎である計測工学、電気・電子工学について学びます。計測工学としては、測定法、SI単位系、誤差、信号変換について学びます。電気・電子工学としては、電界・磁界、直流回路、交流回路、半導体、ディジタル回路について学びます。
「医療機器の原理と構造」は、CT、 MRI、超音波診断装置等の最先端の医療機器を扱う場合、その装置の動作原理および構造を理解しておく必要があります。本講義では、医濠計測機器、治療機器の基本的な原理と構造および使用上での注意と安全の知識を学びます。医療計測機器としては,生体の電気信号による診断を行う心電計・脳波計,物理的な現象による診断を行う血圧計・内視鏡装置,画像による診断を行う超音波診断装置・X線CT・MRIについて学びます。治療機器としては,心臓ペースメーカ、 AED、体外循環装置、呼吸療法搬器、レーザ治療装置等について学びます。
「医用工学実験」は、将来、医療機器を取り扱ったり開発することを想定し、医療機器を構成する電気回路、電子回路、医療機器基本回路・処理回路等の医用工学実験を通じて種々の医療機器の基礎原理について学びます。電気回路としては. 直流回路、交流回路、ホイストーンブリッジ、パッシブフィルタについて学びます。電子回路としては、ダイオード、トランジスタ、演算増幅器、オペアンプ、アクティブフィルタ、ゲート回路、FF、カウンターについて学びます。
医用工学プログラムは、センサ、電気・電子回路及びマイクロコンピュータ等で構成されている医療機器のハードウウェアについての基礎知識を講義と実験実習を通して理解できるプログラムを提供します。
本プログラムは、将来、医療人として、医療機器を取り扱ったり、医療機器の研究開発に従事する研究者に対する基礎知識となる内容で構成されています。本プログラムを履修され、医療現場において、医療機器の問題点や限界を認識した上での医療機器の的確な取り扱いや、高度の医療機器開発を通して地域に貢献していただくよう期待しております。